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顧客囲い込み手段のポイントの発行総額が個人消費の一五%にも匹敵する規模に膨らんでいる。企業はポイント付与だけでなく、航空会社のマイレージへの交換など交換のしやすさにも力を入れている。同時に、地域活性化のツールとしても注目されている。ポイント規模の急速な拡大を背景に、業界団体や経済産業省は個人情報保護やポイントの会計ルールの明確化などにも取り組み始めた。
野村総合研究所によると、顧客囲い込みや販促手段として企業が発行するポイント発行総額はいまや四千五百億円以上にのぼる。三百兆円を超す個人消費全体からみれば「一五%程度がポイント付与の対象」(同総研の安岡寛道上級コンサルタント)という状態だ。 ポイント発行企業が増える中、ポイントのためやすさだけでは他社との違いを打ち出せなくなってきた。そこで広がってきたのが他社のポイントプログラムとの連携、つまりポイント交換だ。 プログラム間での交換状況はどうなっているのか。ポイント検索サイト「ポイント探検倶楽部」で今年一月に検索された結果をみると、ためたポイントは航空会社のマイルに集約する利用者が圧倒的に多いことが判明。日本航空、全日本空輸はポイント流出の三倍以上が他社ポイントから流入すると推定される。 ポイントを現金価値に換算すると通常、一ポイント当たり一円だが、マイルの場合は四―五円以上になる。こうした人気を背景に、日航、全日空は買い物額に応じてマイルを付与するインターネット通販モールなどを拡充。航空マイルがポイント版「基軸通貨」としての色彩を強めている。 航空会社以外で、他社ポイントの受け入れ先として人気が高いのが、現金や電子マネーに換えられるポイントプログラムだ。イーバンク銀行、ジャパンネット銀行は一ポイント一円換算で利用者の銀行口座(手数料などがかかる場合もある)に振り込むサービスを展開。現金志向の強い主婦層に受けている。 消費者受けのいいポイントプログラムには、他社からのポイント提携の申し入れが相次ぐ。例えばイーバンク銀行の場合、直近のポイント提携先は約五十社で前年比五割増えた。 ポイント交換先を増やすことは消費者利便性にはかなうものの、手間やコストもかかる。A社の会員がためたポイントをB社のプログラムに移す場合、A社はB社からポイントを購入して自社の会員に付与する。 交換先が増えるほど、コストもかさむ。費用対効果の面からポイント提携を見直す動きが出てきた。 ローソンは三月末でカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)子会社のTカード&マーケティングとのポイント提携を解消する。 ローソンは〇三年当初、自社の来店客がビデオレンタル店「TSUTAYA」会員と傾向がよく似ていることなどから提携。ローソンの買い物でも、TSUTAYAで使えるポイントがたまることが呼び水になって、来店客の大幅な伸びを見込んだ。だが実際は「利用実績などからみると、提携のメリットが感じられるほどの効果はなかった」(ローソン)という。 ポイント提携は数年前は先例が乏しく、企業は効果を見定めにくかったが、ここにきて徐々にその費用対効果がみえてきた。利用者の満足度を高めるため、全体的にみればポイント交換先を広げるというトレンドは変わらないが、今後は軌道修正を迫られる企業が相次ぎそうだ。 ポイント市場が急速に拡大するにつれ、消費者保護の問題が浮上してきた。経済産業省や業界団体は個人情報保護やポイント権利の保護に向けたルール作りを始めた。 経済産業省は二月二十三日に「企業ポイント研究会」を発足。NTTドコモやKDDI、全日本空輸、高島屋、楽天など主なポイント発行事業者が参加、ポイントの交換比率や有効期限などの取り決めを設ける方向で議論しており、六月までに報告書をまとめる。 ネットマイルやECナビ、サイバーエージェントといったネット上でポイントサービスを手掛ける十三社も二月十五日に任意団体「日本インターネットポイント協議会」を設立。消費者保護などについて事業者間で情報交換しながら、今後一年で具体的な運用ガイドラインを確立する。 焦点の一つは権利保護。電子マネーについては未使用残高の半額を供託することが義務づけられているが、ポイントについては企業の倒産時などにも全額払い戻しの義務はない。このため発行企業が倒産した場合、消費者のポイントが消滅する可能性がある。 悪意のあるポイント発行業者が恣意(しい)的に倒産し、他社から獲得したポイント原資を消費者に還元せずに逃げる可能性もある。すでに「ポイント事業を立ち上げて六カ月でサイトAを閉鎖し、すぐに別のサイトBを立ち上げるような事例が出はじめた」(ネットマイル)。 ポイント発行に伴い企業が計上する引当金は明確な基準がなく、各社で引き当て方式が違う。実態と乖離(かいり)した引当金を計上して利益操作をする企業がでる可能性も指摘される。 ポイント発行業者はこうした市場ルールを明確にすることで消費者のポイント離れを防ぐと同時にサービス事業者自身や広告主の保護もめざす。 ポイントサービスを地域活性に生かす取り組みも進んでいる。 地域通貨と電子マネーの利点を兼ね備えるのがサイモンズ(東京・中央)運営の「サイモンズ・ポイントカード」。業種を超えた共通ポイントで、どの加盟店でも購入百円ごとに一ポイントたまり、一ポイント=一円としてどこでも使える。集客効果が高く、ポイント処理や顧客データベース管理をサイモンズが代行するため零細店でも導入しやすい。 全国一千店が加盟、会員は十五万人。現在、最も普及しているのが北海道函館市。朝市の専門店から小さな食堂などが加盟するが、その動きは大都市にも広がってきた。飲食店検索サイト「グルメぴあ」を運営するグルメぴあネットワーク(東京・港、増田康裕会長)は一月に加盟。全国飲食店二万五千店のグルメぴあ加盟店間で顧客を融通する。 関東私鉄大手が三月に導入する共通ICカード乗車券「パスモ」もポイントサービスとして注目を集める。私鉄各社や商店街、自治体が組んでパスモを活用する方向だ。 東京急行電鉄は東京都目黒区商店街連合、目黒区と連携し秋からパスモを使った割引を始める。パスモの電子マネーで区内の店で買い物をするとポイントがたまり、次回買い物時に一ポイント=一円の割引を受けられる。同世田谷区も、地域ボランティア活動や介護予防講座に参加した六十五歳以上の区民を対象に、ポイントを付与する制度を十二月に始める。たまったポイントは、区の共通商品券などと交換できる。
by yurinass
| 2007-03-05 10:11
| 経済状況記事
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