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【1】経営者のパートナーとして、あらゆる意思決定に加わる
世界でビジネスを展開し、成長を続けるGEグループ。その成長を支える財務・経理部門とはどのような組織なのか。GEヘルスケア・ジャパンCFOの村上義人さんに強さの秘密を聞く。第1回目は、経営企画の機能も担う財務・経理部門の役割についてだ。 --村上さんは、30歳の若さでGEヘルスケア・ジャパンのCFO(最高財務責任者)という重責を担っていらっしゃるんですよね。GEグループで財務・経理部門がどのような役割を果たしているのか、村上さんの仕事を通してご説明いただけますか。 村上 私がCFOを務めているGEヘルスケア・ジャパンは、GEグループの6事業部門の一つであるヘルスケアビジネスを日本で統括する組織です。現在、画像診断装置を開発・製造・販売するGE横河メディカルシステム、バイオ関連製品を取り扱うGEヘルスケアバイオサイエンス、そして放射性医薬品や診断用薬を取り扱う日本メジフィジックスの3社があり、売上高は合計1700億円くらいです。ファイナンス(財務・経理部門)には、60人ほどのスタッフがいます。 CFOの役割としては、会社法に基づいた決算やタックスファイリング(税務申告)なども当然ありますが、私にとって最も重要な仕事は、収益力を高めながらビジネスをどのように成長させていくのか、その方向性や取るべき施策、体制作りなどの戦略をオペレーションズのチームと一緒になって練ることです。その際に、ファイナンスのチームとして適切なデータを出せるような環境を整えることも欠かせません。 もう1つ、非常に大きな比重を占めるのは、ファイナンスチームのスタッフのモチベーションを高め、将来の成長に貢献できるような人を育てていくことです。おそらく3割ぐらいの時間は、ファイナンスのスタッフとのミーティングや育成のための活動に使っています。 従来のブックキーピング(経理)のイメージではない --オペレーションズというのは、営業部門などを指すのですか。 村上 そうです。セールス(販売)やサービス(保守)、それにモダリティ(製品担当)などです。モダリティの組織は、CT(コンピューター断層撮影装置)スキャナーやMRI(磁気共鳴画像装置)といった製品群に分かれ、それぞれの販売戦略を立てます。 特徴的なのは、セールス、サービス、モダリティのそれぞれを担当するファイナンスのスタッフがいて、サポートしていることです。さらに FP&A(全社の財務分析部門)が全体の数字の統括をして、業績を議論します。組織力という観点からすると、各部門のかなり深いところまでファイナンスが入っていき、各部門の担当者も数字を意識した議論をするところが、GEの強みの1つではないでしょうか。 そのようにしてまとめた数字を基に、ビジネスの現状や四半期ごとの業績見通しなどを議論する「オペレーティングレビュー」と呼ばれる会議を毎月、開いています。GEヘルスケア・ジャパンの場合、CEO(最高経営責任者)とCFO、モダリティのリーダー、それに全国で活動しているセールスとサービスのリーダーたちがこの会議に参加しています。 --営業などにも財務担当者がいるのは意外ですね。 村上 ファイナンスというのはビジネスパートナーでなければいけないということです。感覚的には、常にCEOやビジネスのリーダーの隣に存在している。今、説明した販売部門だけではなく、製造部門にも同じような形でファイナンスのスタッフがいて、同じようにミーティングをやるのです。ファイナンスが多くの場面で非常に深く入り込んでいますので、従来のブックキーピング(経理)のイメージとはかなり違います。 GEの各事業部門グループのCEOの中には、CFO出身者が何人もいます。数字に対する感覚であるとか、ビジネスをどのような方向に展開していけば望まれる結果につながるかという関係をよく理解している者がビジネスリーダーになっていく傾向にあると思います。 --財務・経理というと、“コストの番人”というイメージがありますが…。 村上 それも大切ですし、我々の業務の一部でもあります。けれども、それだけではないところがGEでファイナンスを担当する上でやりがいにつながるのだと思います。現場の営業の社員と一緒に、どうすれば収益力を高められるのか、ビジネスの構造をどう変えれば成長につながるのかを考えます。ですから、一例を挙げると、営業スタッフが売掛金の回収などで問題を抱えている時にはお客様のもとに同行していって、「このようにされたらいかがでしょうか」と提案したりするケースもあります。 村上義人さん GEヘルスケア・ジャパンCFOの村上義人さん --財務が顧客に出向くんですか。 村上 それほどはないですけれど、部署の垣根を意識せずに、本当に一体となってやっていくのがGEの強みだと思っています。 --村上さんの1週間のスケジュールはどうなっているんですか。 村上 そうですね、1週間で区切るとちょっと分かりづらいので1年のスパンで話をすると、GEというのはウォールストリート(投資家)に対して、クオータリー(四半期)で業績を発表しています。従って、我々もクオータリーで結果を報告します。 --決算期ごとに、数字で見える成果を出さなければならないということですね。 村上 そうです。決算は月次ベースですが、3、6、9、12月は「ハードクローズ」と呼んで、特に重視しています。このスケジュールを基に、毎月のオペレーティングレビューがあり、さらにGEヘルスケアのグローバル CEOへのリポートもあります。その準備に1週間ぐらいはかかりますね。これに加えて、自分のスタッフとの1対1のミーティングも欠かすことはありません。 そのほかにも、例えば「効果的な在庫運用」といったテーマ別のミーティングが、必要に応じて不定期で開催されますね。朝の9時から夜の7時ぐらいまでは、ほとんどずっと誰かに会っています。その後にグローバルチームとの電話会議に参加したりします。 --社内各部門とのミーティングでは、ファイナンスはどのような役割を果たすのですか。 村上 例えばM&A(企業の合併・買収)の案件があったとします。買収あるいは提携した後にどういうビジネスモデルが築けるか。我々のビジネスからすると受け入れられるレベルの収益があるのか。なければ、どのように改善すれば、望まれる収益レベルを達成できるのか--といったことについて一緒に考えていきます。 経営企画の機能を持った財務・経理部門 --財務的な数字を基にして判断基準を示したりするのですか。 村上 そうですね。財務的な数字は、判断を下すうえでの大切なファクターになります。ファイナンスとして第三者の立場から意見を出すこともありますが、分析だけでなく解決策を提案していく。あくまで一緒になって考えるというイメージです。 GEには、いわゆる経営企画のような部署がありませんし、COO(最高執行責任者)もいません。そこで、ファイナンスがあらゆるビジネスの場面に入っていき、意思決定に加わります。そういう意味で、ファイナンスはビジネスパートナーであると言えます。 --意思決定の場にファイナンスが参加して、数字に基づいた議論をすると内容に厚みが増すというのは何となく想像できるのですが、具体的にはどのような形で“知恵”を出すんですか。 村上 例えば、M&Aを検討する際に「海外ではこうやっています」「ほかの事業部門ではこうやっています」というようにケーススタディーを示して、多面的に考えたり、あるいは議論を整理したりするための材料を提供します。 --世界のGEが持っているベストプラクティスを活用するわけですね。だから、村上さんのようなファイナンスのリーダーになるには、GEの様々な部門を監査する「CAS」(コーポレート・オーディット・スタッフ)というプログラムを経験することが重要なのでしょうか。 村上 そうですね。いろいろな部門の仕事を実際に目で見て経験することに加えて、人的なネットワークを作れることもCASに参加する大きなメリットです。 例えば、つい先日もGEコマーシャル・ファイナンスのCFOから、「コスト削減のアイデアを集めているのだけれど、ヘルスケアが取り組みを続けてきていると聞いたので、ベストプラクティスを教えてほしい」との連絡がありました。彼と私はCASで一緒に仕事をした仲間です。このようにネットワークを最大限に生かして、様々なところにある情報を統合し、整理して提供するのがファイナンスの役割ではないでしょうか。 村上 義人(むらかみ・よしと)氏 GE横河メディカルシステム執行役員 CFO。1977年、東京都生まれ、30歳。2000年3月慶応義塾大学総合政策学部卒業。同年4月、日本ゼネラル・エレクトリック入社し、ファイナンシャル・マネジメント・プログラム(FMP)に従事。2002年コーポレイト・オーディッド・スタッフ(CAS)、2006年エグゼクティブ・オーディット・マネージャーに就任。2007年8月から現職。
by yurinass
| 2008-06-09 00:05
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