Webメモ


メモです。
by yurinass
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30
カテゴリ
以前の記事
フォロー中のブログ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧

その設備投資は、本当に大丈夫ですか

経営者の意識が数値化される資産除去債務
 企業にとって、将来の競争力を左右する経営戦略の1つである設備投資。その方針を策定する際に検討すべき項目が、新たに増える。除去費用だ。

 これまで設備投資の検討項目は、会計的には、必要な資金の調達額や維持更新費用、減価償却費の規模が中心になってきた。今後は、土壌改良費用など設備を除去した時にかかる可能性のある費用についても、注視が必要になる。会計基準の変更で2011年3月期から、今まで簿外債務となっていた資産除去債務を、財務諸表に計上しなくてはならなくなるからだ。

 我が国の会計基準では、これまで設備の除去費用は、実際に除去をした時に計上することが一般的だった。実際、既存の財務諸表でも、設備除去費用は計上されている。2007年度の有価証券報告書を見ると、事業再編に伴う資産処分損、拠点統廃合費用など、が計上され、中には10億円を超える事例も数件あった。

 だが2011年3月期から、要件を満たす除去費用は、将来の支出がほぼ確実となった段階から計上しなければならない。たとえ設備を除去するのが何十年先でもだ。このように我が国の会計基準が変更されたのは、国際会計基準とのコンバージェンス(共通化)の一環だ。新基準に移行する時、過年度に計上すべきであった除去費用は全額特別損失に計上する。

 新会計基準の移行で、経営者にとって、環境に無関心な設備投資の結果が、多額の資産除去債務という形で数値化されることになる。これまでは除去コストに無関心な設備投資を行っても、自分が経営陣にとどまっている間に費用計上がなければ、直接その責任は問われなかったが、今後はそうはいかなくなる。新基準は、環境に対する経営者の意識を問うものと言える。

有形固定資産の取得、使用で生ずる債務

 資産除去債務とは有形固定資産を取得したり、使用することによって生じる債務だ。法令や契約で支出が義務づけられる除去費用が対象だ。法律上や契約上の義務と同等と言える過去の判例なども対象だ。除去とは、設備を利用除外にすることを言う。手段は売却、廃棄、リサイクルなど様々だ。

 ただし、転用や用途変更のように形を変えて利用する場合は含まないし、遊休のように明確な利用除外と言えない場合も含まない。また有形固定資産には、貸借対照表上の有形固定資産だけでなく、リース資産や投資不動産も含む。とても幅が広いのだ。

 法令で義務づけられる除去費用の例は、土壌汚染対策法上の浄化費用や大気汚染防止法上のアスベスト対策費用などだ。契約で義務づけられる除去費用の例は、不動産賃貸借契約で定められる原状回復費用や借地権契約で定められる上物の除去費用だ。

 今後、環境対策のための新しい法律が公布され、新たな環境費用が義務づけられればそれも該当する。なお、新基準の除去費用には、すべての除去費用が該当するわけではないので注意したい。法律や契約で義務づけられるもの、またはそれに準じるものが新基準の対象なので、自分の意思のみで支出するような除去費用は対象ではない。

発生時点で計上

 設備の取得時や使用中に資産除去債務が発生すれば、その時に計上しなくてはならない。例えば、工場の土壌汚染が発生した時点、建物にアスベストが使用されていることが判明した時点、原状回復義務を定めた不動産賃貸借契約を締結した時点が債務の発生時だ。

 資産除去債務は、除去のための見積もりキャッシュアウトフロー(現金支出)を現在価値に割引いて計算される。例えば5年後に1000の除去費用が見積もられたとする。これを割引率3%で割引計算すれば現在価値は863となる(1000を1.03の5乗で除した数)。この863は資産除去債務という負債に計上するだけでなく、資産残高にも加算する。

 資産に加算された863は減価償却計算の対象だ。資産と一緒に耐用年数で規則的に償却する。また、資産除去債務を割引計算しているため、時の経過に伴って債務額を調整しなければいけない。債務に割引率(この場合3%)をかけて期間費用(この場合863×3%)を計算し、費用計上して負債に加算する。除去費用は設備の使用期間を通じて費用計上されるのだ。

 なお、賃貸ビルなどの場合、除去費用に敷金を充当することが一般的だ。この場合は、資産除去債務という負債は計上しない。代わりに、返還されない敷金を除去までの期間で規則的に償却する。除去費用が設備の使用期間を通じて費用計上されるのは同じだ。
合理的な見積もりが条件

 資産除去債務の金額は合理的に見積もらなければいけない。専門業者の見積もり、過去の実績などを使用することが一般的だ。中古物件の購入価額に除去費用相当分の値引きが反映されている場合にはそれを参考とすることもできるだろう。ただし何を使用しても、金額の根拠を理論的に説明できなければならない。

 新基準の適用前に簿外債務となっている資産除去債務のうち過年度に対応する金額は、基準の適用初年度の特別損失に計上する。

 資産除去債務の見積もりには次の3つが必要だ。

(1) 将来の除去にかかるキャッシュフロー(現金収支)の見積金額
(2) 割引率
(3) 除去の予定時期

 最も難しいのが「除去の予定時期」の特定だろう。契約で原状回復義務のある不動産を借りていれば、資産除去債務を抱えている状態だ。しかし、いつ退去するか分からないと、資産除去債務が計算できない。このように合理的な見積もりができない場合、例えば退去の時期が明らかになるなど合理的に見積もられるようになった時点で資産除去債務を計上する。それまでは次の3点を財務諸表に注記しなければならない。

・ 資産除去債務が存在しているが計上していないこと
・ 資産除去債務の内容
・ 合理的に見積もりができない理由

多額の資産除去債務を負う企業

 資産除去債務が多額となる会社の代表例は電力会社だ。電力会社は、使用済み核燃料の再処理や原子力発電所を安全に解体する将来の義務を負う。このため、従来から引当金の計上が慣行となっており、例えば某大手電力株式会社の2007年3月期の連結上、使用済み燃料再処理関連の引当金約1兆2900億円、原子力発電施設解体引当金約3900億円が計上されている。

 電力会社をはじめ、既に引当金等で除去債務を計上している企業にとっては、新基準の影響は限定的かもしれない。だが、そのような会社でも新基準の導入時には検討が必要なので要注意だ。引当金の計算方法と新基準の資産除去債務の計算方法は同じだろうか。異なる場合は、改めて計算を行い、差額の調整が必要だ。

 このほか多額の除去債務が想定されるのは、古い設備を保有する企業や有害物質を使用する工場を保有する企業だ。吹き付け面積の大小にもよるが、アスベストの除去費用は1平方メートル当たり5万円を超えることも珍しくないそうだ。

一般企業も無関係ではない、減損にも留意せよ

 資産除去債務は、特殊な業種の企業だけではなく、すべての企業に存在する可能性があるものだ。今まで敷金全額を資産に計上することが一般的だったが、原状回復費用のために返還されない分は償却して費用を計上しなければならなくなる。定期借地権で借りている土地を更地化して返還する義務があるのなら、上物の除去費用を計上する。その負担は決して小さくないだろう。

 これに加えて、減損との関係も押さえておくべきポイントだ。減損の兆候はあるが、判定で減損不要となっている資産がある場合は要注意だ。資産除去債務の見積もりの過程で将来のより精緻なキャッシュフローが把握できれば減損の判定結果が変わる可能性もある。

 新基準の適用初年度以降、企業が新たな資産除去債務を計上するのは次のいずれかに該当する時だ。

(1) 新しい環境対策法令によって除去費用の負担が義務づけられた時
(2) 状況が変化して、資産除去債務が合理的に見積もり可能となった時
(3) 資産除去債務の見積金額が増額修正された時

 資産に減損の兆候があり、帳簿価額よりも固定資産の生み出すキャッシュフローが低ければ減損だ。この場合のキャッシュフローには除去費用は考慮しない。上記(1)~(3)に該当し、将来のキャッシュフロー見積もりをより精緻に行えば減損の可能性もある。

ライフサイクルコスティングの時代に

 ここ数年続いた設備関係の会計基準のコンバージェンスは、この資産除去債務で出揃った感がある。減損会計では設備の投資価値という概念が浸透した。また、前回の記事のリース資産は原則としてオンバランスされることになった。もちろん減損会計の対象だ。そしてこの資産除去債務で、設備の除去時の支出が事前に計上されることになる。

 設備投資の意思決定は「値札」でする時代から、調達→維持→除去の過程で発生するトータルコストで考える時代に完全に移行した。つまりライフサイクルコスティングという考え方だ。従来から、経営意思決定はこのライフサイクルコストの観点から行われているが、会計上その視点が金額として反映されるようになったのは最近だ。

 例えば、退職給付会計の導入で、従業員の現在の給与だけでなく、将来の退職給付を見積もって会計に反映することとなった。最近は役員の退職給付も原則として同じように処理することが強調された。また、この記事の第1回目の棚卸し資産会計では、収益性の低下の判断には将来の販売にかかるコストが考慮される。前々回の記事の工事でも、収入総額と費用総額を見積もった会計処理が原則とされた。これらはいずれも広い意味でライフサイクルコストを会計に反映させる方法だ。

 本来、将来の費用の原因が今作られたのであれば、費用も今計上することが自然だ。例えば、今土壌汚染を引き起こしたのならば、将来の除去費用は今計上すべきだ。しかし、必ずしもそのように処理されてきたわけではない。このため、一連の新基準が必要だったのだ。

 新基準が導入され、過年度に費用計上されなかった金額が初年度に計上された。そのため、導入時に多額の負担が生じることになったのだ。退職給付会計基準の適用初年度、各社の巨額な「基準移行時差異」の影響を和らげるため、例外的な規定が設けられた。本来は全額初年度の特別損失とすべきなのを、15 年間で段階的に償却処理することを認めたのだ。

 今回の新基準でも影響額がかなり大きくなる企業も出るだろう。しかし、健全な会計処理を促し、国際的なコンバージェンスを達成することが新基準の目的だ。単に一時的な損失負担を和らげるために、理論的に説明できない例外処理を認めはしない。いくら多額であっても、過去相当分の除去費用は初年度に計上しなければならない。

 資産除去債務の会計は設備投資に限定した話ではない。経営者の意識、企業風土といったものを明るみにする可能性があるため、内部統制やCSR(企業の社会的責任)にも関係がある。CSRファンドや環境ファンドなども普及した。環境対応やCSRはいまや投資指標だ。企業はこの機会に資産除去債務に真摯に向き合うことが求められる。
[PR]

by yurinass | 2008-06-08 23:55
<< 架空売上は1200億円か、IX... 業績が悪いほど、低金利ですむ ... >>