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米住宅ローン問題を甘く見てはいけない

 前から歩いてくる男がボクシングのグラブをはめていたら、身をかわすのが賢明というものだ。米国のサブプライムローン市場の危機は、数カ月前からはっきり見えていた。信用力が低い、あるいは全くない大勢の住宅購入者が、あまりに多額の融資を受けていた。それなのに7月10日、格付け機関がようやく問題を認めると、投資家は不意打ちを食らった。

 株価は一時的に揺らぎ、ドルは下落した。リスク回避の度合いを示す指標であるスワップ・スプレッドは、2003年以来の高水準に拡大した。クレジット・デリバティブ(貸付債権や社債の信用リスクをスワップやオプションの形式で売買する取引)は大きく揺らぎ、投資家は一斉に国債という避難所に逃れた。

 投資家の対応はなぜこれほど遅れたのか。彼らは総じて、サブプライム問題の広がりに不意を突かれる格好となった。投資家はサブプライム問題が債券市場のほかの分野に波及する可能性についても無頓着だった。

 投資家は当初、サブプライム問題は一部の貸し手に限られた問題だと思っていたのだが、忌憚ないウェブサイト(www.lenderimplode.com)によれば、今や97社の貸し手企業が打撃を受けている。投資家はまた、サブプライムローンのデフォルト(債務不履行)は中西部の一握りの州に限定されていると考えていたのだが、実は人口が多いカリフォルニア、フロリダ州にまで広がっていた。

 投資家の対応が遅れた第2の理由は、住宅ローンが組み直され、販売されていたことだ。当初、サブプライムローンは住宅ローン担保証券(RMBS)としてまとめられた。先日、格付け機関ムーディーズ・インベスターズ・サービスが399件のRMBSを格下げすると、ライバルの格付け機関スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は612件の証券(120億ドル相当)の格下げを検討していると発表した。

 これらの証券は住宅ローン関連市場のほんの一部を占めるにすぎない。だが、投資会社グラハム・フィッシャーのジョシュ・ロズナー氏によると、ムーディーズとS&Pはさらなる格下げがあることを示唆したという。

 RMBSは次に分割されて、CDO(債務担保証券)という金融商品に組み込まれた。CDOは投資家のリスク許容度に応じて、幅広い投資家に販売された。この証券の「エクイティー・トランシュ」と呼ばれる部分は、最も高い利回りを提供するが、担保となっている証券がデフォルトした場合は最初に損失を被る。ほかの証券は利回りが低い半面、トリップルAに格付けされている。数多くのデフォルトが重ならない限り、損失が発生しないからだ。

 こうしたプロセスは理論上、市場を助けた。金融危機の中心には大抵、銀行の破綻があるものだが、住宅ローンのデフォルトの損失を銀行が直接被るのでなく、痛みが金融システム全体に分散されるためだ。

 ところが今、リスクがどこにあるのか誰にも分からない状況にある。これらの証券の多くは流動性が低いため、時価が分からない。実際、格付けの高いCDOトランシュが今も、こうした証券を評価計上しなくてもいい銀行によって保有されているかもしれない。銀行は会計士や格下げによって強いられない限り、問題を表に出さずに済む。

 7月11日、ムーディーズは91件のCDOトランシュ(約50億ドル相当)を格下げする可能性があると述べた。「私の最初の分析では、RMBSを担保にしたCDOのダブルAトランシュで莫大な損失が発生する可能性がある」とロズナー氏は言う(ダブルAトランシュはその名の通り、トリップルAの1つ下)。

 こうした証券の時価評価を迫られた人は、投資銀行INGが「囚人のジレンマの一種」と呼ぶ状況に直面する。つまり、もし誰も売買しなければ、低い価格を認めなくていいのだから皆が幸せでいられる。だが、誰もが売るつもりである場合は、最初に売った人が有利になるのだ。

 この問題が持ち上がったのは、6月に投資銀行ベアー・スターンズ傘下の2つのヘッジファンドがトラブルに陥った時だ。2つのファンドは投資利回りを大きくするために融資を受けており、その際、プライムブローカーと呼ばれる貸し手に担保を差し入れる必要があった。

 事態が悪化した時、貸し手であるブローカーの1社、メリルリンチは担保を売却しようとしたが、思いとどまった。売却すれば相場を急落させるだけだと分かったからだ。最後にはベアー・スターンズが自己資金で穴埋めすることを約束することになった。

 しかし一方で、プライムブローカーはファンドがCDO資産を買う際に払うマージン(証拠金)を引き上げることで、投資家を減らしている恐れがある。シティグループのマット・キング氏によると、格付けが投資適格すれすれの証券のマージン要求額は、従来の10~20%から50%に上昇した。これは間違いなく一部ヘッジファンドの意欲を削ぐだろう。

 こうしたすべての事情が潜在的な住宅ローンへの投資家を減らす可能性をはらんでいる。そして、その影響は、ほかの展開によって増幅されるかもしれない。

 米国では近年、住宅所有者の比率を、戦後平均の約63%から70%に増やす協調的な取り組みが展開された。融資基準が緩和され、頭金の必要もなくなった。その極めつけが、いわゆる「忍者ローン」(借り手は、収入も職業も資産もなくていい)だ。新たな買い手の流入が住宅価格を押し上げ、それがまた貸し手を熱中させた。

 しかし、格付け機関がついに発見したように、不正も一役買っていた。住宅購入者の返済能力とはほぼ無関係に、関係者全員に契約をまとめる誘因があった。住宅購入者は手っ取り早い利益を望み、不動産業者と住宅ローン仲介者は手数料を望んだ。そして銀行は、ローンをさっさと売るので、借り手の信用力を以前ほど気にしなくてよかった。

 特に昨年実施されたローンでデフォルトが相次いだ今、融資基準が厳格化されつつある。それは潜在的な住宅購入者の数を減らし、住宅価格に下落圧力をかけるだろう。

 多くの住宅所有者が既にトラブルに陥っている。経済コンサルティング会社マクロメイブンズの試算によると、変動金利型ローンの23%(6930億ドル相当)が既に、ローン残高が不動産価値を上回る「ネガティブエクイティ」状態にある。

 だが、デフォルトの本当の影響は、低い「客寄せ」レートの期限が終わって借り入れコストが高くなるまで表れないかもしれない。これらの客寄せローンは、「2と28」を基準に行われている(最初の2年は低金利で、残りの28年は高金利が適用される)。つまり、2006年に実行されたローンの最悪のニュースは2008年まで聞かれないかもしれないのだ。

 また、デフォルトですべて終わりかと言えば、必ずしもそうではない。貸し手の大半は、抵当物件の差し押さえを望まない。差し押さえには長い時間と費用がかかるし、退去する入居者がしばしば家を無茶苦茶にするからだ。速やかな売却で合意する方がいい。だが、あまり多く売りすぎると相場が下がり、ポートフォリオのほかの部分が傷んでしまう。

 このため、返済に苦しむ借り手の不動産が市場に出てくるまでには時間がかかりそうだ。滞納住宅ローンの買取専門会社アメリカン・レジデンシャル・エクイティーのジェフリー・カーシュ氏は、「不動産の担保物件差し押さえには3年以上かかることがある」と言い、2009年第1四半期まで住宅市場は底を打たないと見ている。

 当面の懸念は、住宅市場が米国を不況に追い込むことではない(その可能性も、なくはないが)。心配なのは、信用条件が厳しくなることだ。リスクが高めの欧州企業が支払うスプレッド(調達金利差)は6月半ば以降、ほぼ1ポイント拡大した。投資家は、レバレッジド・バイアウト(LBO=買収先の企業の資産を担保にして資金を調達すること)の元手資金となる一部のローンを敬遠し始めている。プライベートエクイティー(非上場株)投資会社主導の買収の減速は、株式市場に影響するかもしれない。

 メリルリンチのストラテジスト、リチャード・バーンスタイン氏は、近年、過剰融資が金融市場の成長を助長してきたと言う。だが彼は今では、流動性の枯渇を懸念している。そのことは、いざパンチを見舞われた時に、クッションがないことを意味している。
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by yurinass | 2007-07-18 12:58 | 経済状況記事
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