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名古屋市営地下鉄工事を巡る談合事件で、名古屋地検特捜部は二十日、大林組元顧問ら五人とそれぞれ在籍していたゼネコン五社を独占禁止法違反(不当な取引制限)罪で起訴した。談合によって工事を受注したゼネコンのうち、ハザマだけが強制捜査前に自主申告したため起訴を免れた。「土木の名門」であり、古い業界体質が残っているといわれてきたハザマがなぜ“自首”を決断したのか。(関連記事27面に)
「和歌山、名古屋と(談合事件が)続いて、まともにペナルティーを受けたらもう会社が持たないということだろう」 独禁法違反行為を自主申告すれば処罰が軽減される「課徴金減免制度」の適用をハザマが申請したことが公表された二十日、同社の元幹部はこんな感想を漏らした。 一八八九年(明治二十二年)の創業以来、ハザマは国内外で鉄道、ダムなどの大規模工事を数多く手がけてきており、伝統的に受注高に占める土木工事の比率が高い。大手ゼネコンはおおむね二割程度なのに対し、ハザマは四四%(国内のみ、二〇〇六年三月期)。建築工事を合わせた公共工事比率も三九%(同)と大手の二倍の水準だ。 こうした土木・公共工事依存度が高い収益構造に加えて、台所事情の苦しさがのしかかる。ハザマは四年前の〇三年三月期に不良資産処理などで千二百二十六億円の最終赤字を計上、千百十一億円の債務超過に陥った。同年十月に新旧会社に分割し、不良資産は旧会社(社名は「青山管財」)が引き継ぎ、建設事業に特化した新会社(現ハザマ)が代替上場して命脈をつないだ。 メーンバンクのみずほコーポレート銀行が主導した荒療治の結果、巨額の有利子負債が収益を圧迫することはなくなったが、借金棒引き(〇一年三月期に千五十億円の債務免除)や長引く業績低迷による信用低下に依然悩まされている。〇六年三月期の受注高は千九百六十七億円。ピークの九二年三月期(七千四百九十五億円)の四分の一近くに減少している。 〇七年三月期の最終利益予想は九億円。仮に名古屋談合で公正取引委員会に告発され、課徴金や違約金を徴収された場合には赤字転落になりかねない利益水準だ。すでにハザマは和歌山県発注工事を巡る談合事件で昨年十月末、国土交通省から全国で一―二カ月間の指名停止措置を受けるなど受注への影響は深刻さを増している。 ハザマは二十日、「独占禁止法違反の排除とコンプライアンス経営について」という表題の文書を公表。課徴金減免制度の適用を申請した報告とともに、土木担当の友野希成副社長(63)の辞任や新名順一社長(57)をはじめ取締役七人の減俸などを含む社内処分を明らかにした。首脳陣の危機感は尋常ではない。 「危機管理に弱い会社」というレッテルがハザマにはつきまとってきた。終戦の年から四半世紀近くトップの座にあった神部満之助元社長(故人)をはじめ同社にはワンマン経営者が多く、東宮御所の「一万円入札問題」や、石川達三の小説「金環蝕」のモデルにもなった九頭竜ダム(福井県)入札スキャンダルなど企業統治やコンプライアンス(法令順守)にまつわるトラブルに何度も見舞われた。 宮城、茨城県知事や仙台市長、ゼネコン経営者らが逮捕された九三年のゼネコン汚職事件。摘発の口火を切ったのは「仙台市長選、三〇〇〇(万円)」と記されたハザマ関係者の文書だった。昨年九月の和歌山談合事件も、二カ月前に別の事件で大阪地検特捜部がハザマ大阪支店を家宅捜索した際に押収した「井山(義一、元ゴルフ場経営者)氏に五九〇〇万円」と書かれたメモが摘発のきっかけになった。 九三年のゼネコン汚職事件でハザマは現職の会長、社長が同時に逮捕されるという汚点も残した。「大手に比べて組織的に会社を守る能力で格段に劣る歴史や社風を考えれば、新名社長が自主申告を決断した気持ちは理解できる」と同社の元幹部は指摘する。 〇三年の債務超過転落で信用不安がささやかれていた当時、ゼネコン業界ではJV(共同企業体)の組み合わせでハザマを排除する「ハマはずし(『ハザマ外し』の隠語)」が横行した。業界での“村八分”の恐怖はこの時に経験済みともいえる。だが、村八分よりも怖いのは経営破綻。「公共工事の減少など経営環境の悪化が続けば、ハザマのような(自主申告に踏み切る)会社がこれから数多く出てくると思う」と大手ゼネコン首脳は予測する。 ▼課徴金減免制度 談合やカルテルなど独占禁止法違反行為について、公正取引委員会に自主的に申し出て調査に協力した企業の課徴金を減免する制度。二〇〇六年一月施行の改正独禁法で導入した。立ち入り検査前に最初に申告した企業は課徴金を全額免除し、刑事告発も見送る。二番目は五〇%、三番目は三〇%減額する。検査後の申告は一律三〇%の減額。減免する企業は立ち入り検査前後を合わせ先着三社まで。 (日本経済新聞)
by yurinass
| 2007-03-22 08:09
| 経済状況記事
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